治験における精度管理記録や保守点検記録は、混同されてしまいがちだとされています。
ここでは、治験のデータとして信頼できるデータはどのようなものかまとめていますので、ぜひチェックしてください。
信頼できるデータとは?
治験のデータは、信頼できるデータでなければなりません。治験では信頼できるデータを得ることが重要であり、そのためにGCP(※)などでさまざまな規制がされていたり、監査や査察がされていたりします。そこで、このページでは、信頼できるデータとはどのようなものなのかをまとめ、治験システム導入において気を付けなければならない点についても詳しく解説していきます。
※GCPとは、医薬品の臨床試験実施の際に、企業や医療機関が守らなければならない基準をまとめた省令のことです。欧米諸国をはじめ世界中で医薬品開発に関する国際的なルールとして認められているものを厚生労働省がまとめたものです。
引用元:厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8940&dataType=1&pageNo=1
質の高い治験実施計画書に沿って集められたデータ
質の高いデータを得るには、質の高い治験実施計画書が必要不可欠です。製薬メーカーでは、添付文書の完成形をイメージしてから、逆算して治験でどのようなデータを集めればよいのか決めていきます。上記の他には「手順の明確さ」「バイアスがかかりにくい手順にする」といったことも、質が高いプロトコルに必要です。
したがって、ほぼすべての治験において、プロトコル以外には「EDC入力の手引き」「検体採取に関する手順書」などの各種手順書が存在します。質が高いプロトコルや手順書の作成は、結果的に質の高いデータ収集につながっているといえます。
モニタリングがしっかりとなされているデータ
質の高いデータは、プロトコルや手順書がしっかり整っているだけでよいというわけではありません。必要とされている要素は、以下の通りです。
- プロトコルや手順書をしっかりと守り集められたデータ
- カルテや検査記録といった資料と齟齬がないデータ
- 科学的妥当性のあるデータ
上記の条件を満たしているかどうかを確認するため、GCP第21条に「モニタリングの実施」が規定されています。
監査によって品質が保証されたデータ
しっかりとモニタリングが機能しているかどうかは、第三者視点で確認しなければ意味がないとされています。
GCP第23条では「監査に従事する者は、監査に係る医薬品の開発に係る部門及びモニタリングを担当する部門に属してはならない。」と定められています。
引用元:厚生労働省:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=409M50000100028_20231226_505M60000100161
治験には認証された検査機関のデータが必要
治験には、しっかりと精度管理がされている検査機関のデータを用いることも重要です。GCP第4条第1項のガイダンスには、以下のように規定されています。
「治験依頼者は、治験に係る検体等の検査機関(実施医療機関の検査室等を含む。)において、検査が適切に実施されて治験に係るデータが信頼できることを保証するため、当該検査機関における精度管理等を保証する記録等を確認すること。」
引用元:厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6089&dataType=1&pageNo=1
精度管理とCRAに求められるアクションについて
治験の臨床検査等の精度管理については、平成25年に出された「治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方について」という通知が考え方が根本にあります。この通知は精度管理の基礎の部分と言われているため、しっかり確認しておく必要があります。
ここでは、上記を踏まえたうえで詳しく解説していきます。
精度管理等を保証する記録等
まず、精度管理を保証する記録から考えていきましょう。これは、ISO15189や米国病理学会(CAP)などから発行されている認定証が該当します。大学病院といった大規模な施設であれば、ホームページに掲載されているケースも多いため、施設担当になった際には、あらかじめ確認しておくのが望ましいです。
施設の認定証を確認する際には、有効期限が治験期間をカバーできているかチェックしておきましょう。
例外の説明
基本的には、精度管理記録の確認と言われた場合、認定証を確認するだけでよいのですが、例外もあります。例外に対応するため「精度管理等を保証する記録等」と「等」が使用されているケースもあります。ここでは、どういったことなのかチェックしていきましょう。
記録「等」について
精度管理等を保証する記録等の「等」の部分からみていきましょう。「治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方」にも記載されていますが、1988年にアメリカで臨床検査室改善法という法律が制定されました。その中で、ヒトの検体を扱っているすべての検査室は、検査精度を確保するため国家基準に基づいた認証を取得しなければなりません。
一方、日本の場合は、臨床検査の精度管理に関して法律では定められておらず、外部認証の取得も義務づけられていないことから、認定証を取得していないという状況もあり得るのです。
GCPガイダンスにおいては、確認すべき検査の範囲や具体的な確認方法は、各検査データの当該治験における位置づけを考慮して決めることとされています。確認方法は依頼者が決めることといわれています。
すなわち、依頼者が適切だと考える理由をしっかりと説明できるなら、認定証以外の確認方法も可能なため、「精度管理等を保証する記録(認定証)」等の確認でもよいとされているのです。
精度管理「等」について
精度管理等を保証する記録等の中には、具体的に言うと、校正や保守点検などが含まれています。すなわち、校正されていることを保証する記録(校正記録)や保守点検されていることを保証する記録(保守点検記録)を指します。
上記2つの記録ですが、どのような場合に必要なのか、どの程度の質が求められているのか、次の章で詳しくご紹介します。
校正記録や保守点検記録が必要な場合
「校正記録」や「保守点検記録」の必要性は、治験において検査項目が重要な位置付けになっているかどうかによって判断されます。例えば、降圧剤の治験で主要評価項目が「平均坐位収縮期血圧(msSBP)のベースラインから投与8週時までの変化量」だとします。この場合、血圧の測定が重要だということがわかります。
したがって、医療機関にある血圧計を使って血圧測定をする場合、その血圧計の精度がしっかりと保証されている必要があるのです。精度がしっかりと保証されているかどうか確認する手段としてはさまざまあります。例えば、定期的にしっかりと校正されていることを確認するといった方法が挙げられます。
上記の場合、校正記録についてもあらかじめ確認しておかなければなりません。
試験としてはそれほど多く見られませんが、医薬品の治験において治験使用機器が規定されているような治験は注意が必要です。なぜかというと、治験使用機器はそもそも有効性や安全性評価に影響をおよぼすと考えられる機器が規定されており、保守点検記録・校正記録の必要性とリンクしているからです。
このようなケースの場合、血圧の測定値が試験の結果に結びつくため、施設間の使用機器によるばらつきをなるべく抑えるために、依頼者があらかじめ血圧計を用意して貸し出すということもあります。貸し出した場合であっても、日々の点検記録の要否などをしっかりと確認しておくことが重要です。
どの程度の品質が求められている?
保守点検記録や校正記録は、どのようなレベルの情報を記載する必要があるのでしょうか。精度管理の通知においては、以下のように記されています。
治験において必要な精度管理は、医療機関で行われている校正や保守点検のみの場合であっても、その記録が必要時に確認可能であり、なおかつ適切に管理されていれば十分だといわれています。つまり、基本的には、施設が通常実施している方法で問題ありません。
校正記録には、以下の2種類があります。
- 内部校正:内部で通常行う校正
- 外部校正:第三者機関が客観的な立場から校正を行う
通知されている通りであれば、施設がどちらの方法で校正をしていても問題ありませんが、もし依頼者として指定されているのであれば、考慮しておく必要があります。校正記録が必要な場合、内部校正でよいのか、それとも外部校正までする必要があるのか、あらかじめ確認しておきたいポイントです。
治験では信頼できるデータを得ることが重要
治験では信頼できるデータを得ることが重要であり、そのためにGCPなどでさまざまな規制がされていたり、監査や査察がされていたりするのです。
質の高いデータを得るには、質の高い治験実施計画書が必要不可欠なほか、手順の明確さ・バイアスがかかりにくい手順にするといったことも、質が高いプロトコルには欠かせません。また、治験には、しっかりと精度管理がされている検査機関のデータを用いることも重要です。
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