治験には、日本国内のみで行う「単一国試験」のほかに、世界各国で同時進行的に行う「国際共同治験(グローバル試験)」が存在し、新薬の開発製造のために実施されています。ここでは、国際共同治験についての概要やメリットを中心に紹介します。
国際共同治験(グローバル試験)とは
国際共同治験とは、世界的な規模で新薬を開発する場合に複数の国と地域がほぼ同時進行で行う治験を指します。グローバル試験・グローバルスタディとも呼ばれています。
日本国内で一般的に行われている治験の規模をさらに広げたもので、複数の国と地域の医療機関が参加し、共通の「治験実施計画書」に沿って臨床試験を行います。対象者はそれぞれの国と地域に居住する人々で、異なる民族間での反応性や用量の差異を調べます。
国際共同治験(グローバル試験)のメリット
国際共同治験(グローバル試験)のメリットについて解説します。
世界的規模で治験が行える
国際共同治験は世界的な規模で行う試験です。新薬の世界同時開発が可能であり、申請と承認にも時間がかかりにくいこと、症例数が豊富に集められるため、薬の副作用などの問題点も通常の治験に比べて発見がしやすくなります。
ドラッグラグが解消できる
ドラッグラグとは、新薬が実際の患者への治療に使えるようになるまでの時間差、遅延を指す言葉です。
たとえば、すでに海外で開発・承認・使用されている新薬が日本で承認を受けて医療機関に提供され、患者への投与に使われるまでには長い年月を要する場合が多く、その期間をドラッグラグと呼んでいます。
国際共同治験では日本も含めた複数の国々で治験を行うため、新薬の分析や検討がしやすく、ドラッグラグの解消にも役立ちます。
治験に必要な人数の充足
医薬産業政策研究所が米国国立衛生研究所(NIH)等によって運営されている臨床試験登録システムを元に行った調査によると、国際共同治験の実施試験数はアメリカ・ドイツ・カナダ・イギリス・フランス・スペイン・イタリアの順に多く、ロシアやハンガリーなど東欧〜ロシア諸国での国々、またアジアでは韓国が最上位にランクインしました。
日本では、国内のみで行う単一国試験の数が豊富ですが、国際共同治験の実施件数が多い国を含めることで、治験に必要な人数がさらに集めやすくなります。
日本も参加することがある
ドラッグラグはアメリカやヨーロッパ諸国で承認され、使用されている新薬を日本に導入するまでに生じる時間差のことであり、ドラッグラグが起きているために患者の治療の選択肢が狭まってしまう点が問題になっています。
2000年代の後半からドラッグラグの存在が指摘され、2021年7月に発表された論文によれば、改善傾向にあったものの近年では再び未承認薬の数が増えていることがわかりました(※)。
日本国内での承認スピードを上げるためには、予算や新興バイオ企業の日本での展開の後押しなどさまざまな課題が考えられ、日本の国際共同治験への積極的な参加も期待されています。