臨床研究の倫理性

臨床研究は医学の進歩に不可欠な役割を果たすものであり、新たな治療方法の開発や既存の治療法の改善に寄与しています。しかし、その一方で多くの倫理的課題を含んでいます。人間を対象とした研究は、被験者への配慮が求められるため、倫理的な指針を確立し、厳格に守ることが重要です。ここでは臨床研究に倫理性が求められる理由や、倫理性を保つためのポイントについて解説します。

臨床研究において倫理性が求められる理由

被験者の人権尊重

臨床研究における人権尊重は、研究の正当性を確保する基盤です。研究に参加する人々の尊厳と権利を守るため、自由意志に基づくインフォームド・コンセントの取得が不可欠です。すなわち、参加者一人ひとりが研究の目的、方法、リスク及び利益を十分に理解し、明確な説明を受けた上で合意することが求められます。

また、プライバシーの保護及び秘密保持も重要であり、個人情報の取り扱いには細心の注意を払わなければなりません。このように被験者の人権を尊重することは、研究の品質を高めるだけでなく、社会からの信頼を獲得するためにも欠かせません。

安全性の確保

臨床研究に参加する被験者の安全性確保は責務であり、研究計画の段階から十分な配慮が必要です。試験の設計は、潜在的リスクを最小限に抑え、可能な限り安全を確保することを優先に考えるべきです。リスク評価の透明性を持ち、事前に予期される副作用や不都合が発生した場合の対応計画を明確にする必要があります。

また、安全性の確保には試験を行う医師やスタッフの継続的な教育・研修も関わってきます。研究の過程で得られたデータをリアルタイムで監視し、必要に応じて迅速に措置を講じる体制も整えることが不可欠です。これによって、被験者への保護を強化し、高い倫理基準を研究に反映させることが可能となります。

臨床研究の倫理性を保つためのポイント

インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセントは研究に参加する患者や被験者に対し、研究の目的、手順、リスク、メリットなどを十分に説明し、理解した上で同意を得るプロセスです。インフォームド・コンセントを行う際には、情報の正確性と十分性が求められるため、用語や表現に注意を払い、参加者が自分の事情に合わせた意思決定を行えるように支援する必要があります。

また、書面での同意だけでなく、口頭での説明や質問の機会も確保することが大切です。個人の自由意志の尊重が倫理的臨床研究の基本であり、それを確保するためのインフォームド・コンセントは研究の信頼性を高める役割も担っています。

倫理審査委員会

倫理審査委員会は臨床研究が倫理的基準に沿って設計され、実施されることを保証するための組織です。この委員会は研究計画のプロトコルを事前に審査し、患者の安全と人権が損なわれないよう監視します。さまざまな専門背景を持つ委員が集まり、研究の科学的価値はもちろん、倫理的な側面からも厳密な審議を行うことが求められます。

倫理審査が行われることによって、研究参加者への十分な配慮やリスクの最小化、データの適切な取り扱いが確保されるのです。これにより、臨床研究が社会の更なる信頼を得る一助となります。

倫理的指針と規範

治験における倫理的指針・規範に言及している「ヘルシンキ宣言」「GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)」「ニュルンベルク綱領」についてみていきます。

ヘルシンキ宣言

ヘルシンキ宣言は、人体実験において医学研究者が自らの研究を規制することを目的とした、倫理規範のひとつです。ヘルシンキで1964年に開催された世界医師会にて採択されました。

1964年以降も、定期的な改訂が続いています。たとえば、2013年には「医学研究に関与した弱者集団に対して行う保護にもっと力を入れるべきである」といった旨の改訂がなされています。改訂が進むにつれ、そのような保護の強化や個人情報の厳重管理、研究の透明性確保などに関する事項の充実がはかられています。

GCP

GCPはGood Clinical Practiceの頭文字を合わせた略語で「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」を表す言葉です。治験を実施する際に、参加者の人権がしっかりと守られるようにすることを目的とした規則で、日本でも採用されています。ですから、病院や製薬会社は、この規則に従って治験を行う必要があります。具体的には、次のような規則が定められています。

ニュルンベルク綱領

ナチスドイツに加担した研究者たちが、強制収容所などで非倫理的な人体実験を数多く実施しました。大戦中のそうした行いに対する反省から生まれたのが、ニュルンベルク綱領1947です。人間を対象とした研究が、道徳的概念・倫理的概念・法律的概念の全てを満たした状態で行われるようにするため、10ヶ条の基本的諸原則を設定しています。

倫理規範の強化のきっかけとなった実験

アメリカのタスキギーという町で、1932年から40年間にわたり「タスキギー梅毒人体実験」が実施されました。貧しい黒人たちに「政府が実施する医療を受ければ診療代や年金を優遇する」などの条件を提示し、実験であることを伏せて参加を呼びかけたのです。

1945年頃、ペニシリンが梅毒の治療薬として効果があると分かったにもかかわらず、梅毒を患っていた被験者たちにペニシリンによる治療を全く行わなかったことからも、新薬の効果を試すのではなく、治療せずに放置した場合の影響を調べる実験であったと考えられています。

米国政府としての正式な謝罪

1997年、クリントン大統領がこの人体実験について、当時の政府による非倫理的な人種差別であったことを認め、実験の生存者たちに対する正式な謝罪を行っています。

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