医療現場での治療法の開発や改善は、私たちの健康を支える重要な柱です。中でも、特定臨床研究は、新しい医療技術の有効性や安全性を検証し、患者さんに最適な治療法を提供するために不可欠なプロセスとなっています。ここでは、特定臨床研究の目的や仕組み、注意点について解説します。
特定臨床研究とは?
目的
特定臨床研究の主要な目的は、革新的な医療技術や治療法の安全性と効果を科学的に検証し、医療の質の向上に寄与することです。具体的には、未承認または未認証の医薬品や医療機器の使用、新たな治療法や手技の評価などが含まれます。これにより、従来の治療に対する代替案を提案し、病気の予防や早期発見、より良い治療成果を実現することが期待されています。また、個々の患者の状態に合わせたパーソナライズドメディシンの推進も重要な目標の一つです。
仕組み
特定臨床研究は、医療従事者や研究者の計画に基づき、倫理審査委員会の承認の下に実施されます。試験に先立つ審査では、参加する患者の福祉と安全が最優先に考慮され、情報提供と同意取得が徹底されるのが特徴です。研究プロトコル(計画書)には、研究の目的、方法、期間、参加者の選定基準、評価指標などが明記されており、これを厳密に遵守することで、研究の信頼性が保証されます。また、データの管理と分析は公正中立が要求され、結果は科学的な基準に従い評価されます。研究後のフォローアップも含め、研究結果の公表や患者に対する情報提供にも適切な手順が講じられています。
特定臨床研究に関する注意点
未承認・適用外の医薬品等
未承認または適用外の医薬品を用いる臨床研究には、高度な倫理性と慎重さが要求されます。これらの薬剤が人に与える影響は十分に解明されていないため、適切な審査を経た上で、適正な説明を受けた被験者の同意が不可欠です。研究デザインの段階で、医薬品の安全性、有効性、関連するリスクについて徹底的に検討し、患者の利益を最優先に考えたプロトコルの策定が求められます。
また、研究を実施する上で必要となる医療機関や研究者が、医薬品の取り扱いに関する法的規定やガイドラインを厳守することが求められます。綿密な監視体制のもとで臨床研究を進めることにより、参加者へのリスクを最小限に抑制し、未承認・適用外医薬品の可能性を探ることができるのです。
試験の目的とは異なる薬剤に対する資金提供
臨床試験における資金提供元の影響力は見過ごせません。特に、試験の目的と異なる薬剤に対する資金提供の場合、その資金提供による研究の偏向が発生する危険性があります。このような事態を防ぐため、資金提供の透明性を保つことが必要です。資金提供者の詳細や条件、研究チームとの関係性、資金の使用目的などは事前に明確に開示されなければなりません。
研究結果が資金提供の影響下にあるとの疑念を排除するために、研究のプロセス全体は公正で中立的であるべきです。このため、第三者によるモニタリングや審査機関への報告が欠かせない項目となります。研究の客観性と信頼性を維持するためには、資金提供に関わる全情報の開示が不可欠であり、これによって臨床研究の倫理性を保ち、科学的知見の向上に寄与することができるのです。
特定臨床研究の流れ
特定臨床研究を行う際には、研究を始める前に「準備」「書類提出」「CRB審査」「実施申請」「jRCT」の手続きを、定められた手順で済ませておく必要があります。
準備
単施設の場合の準備プロセス
- 研究責任医師が「利益相反管理基準」「関係企業等報告書」を作成する
- 研究責任医師および研究分担医師などが上述の書類をベースにして「研究者利益相反自己申告書」を作成する
- 「研究者利益相反自己申告書」を実施医療機関のCOI担当へ提出して事実確認を依頼する
- 実施医療機関のCOI担当が作成した「利益相反状況確認報告書」を受け取る
- 研究責任医師が全員分の「利益相反状況確認報告書」をベースにして「利益相反管理計画」を作成する
- 研究責任医師が「利益相反管理基準」および「利益相反管理計画」を審査資料として委員会に提出する
多施設の場合の準備プロセス
- 研究代表医師が「利益相反管理基準」「関係企業等報告書」を作成する
- それぞれの施設の研究責任医師に「利益相反管理計画」の作成および研究代表医師への提出を依頼する
※作成方法は単施設の場合と同様です - 研究代表医師が「利益相反管理基準」および全施設分の「利益相反管理計画」を審査資料として委員会に提出する
書類提出
CRB申請窓口に書類を提出します。書類提出先のメールアドレスや提出期限などについては、前もって確認しておきましょう。
CRB審査
ヒアリングやCRBによる審査を受けます。審査結果が「承認」であった場合には、実施機関への実施申請手続きおよび厚生労働省への実施計画の提出を行います。「継続審査」の場合には、次回以降の審査対象となります。
実施申請
研究実施の承認を得るための申請を行います。
jRCTに登録
研究実施の承認を得たら、 jRCTへの登録を済ませ、さらに厚生労働省への届出も行います。その後、実施医療機関の管理者に報告する流れとなります。 ※登録を行うjRCTとは「臨床研究等提出・公開システム」のことです。
研究開始
jRCT公表後、厚生労働省令によって定められる「臨床研究実施基準」の臨床研究法第3条に違反してしまうことのないよう注意を払いながら、研究を実施します。研究内容や実施計画などを変更する場合には、変更申請を行う必要があります。
また、jRCT公表から1年ごと2ヵ月以内に、実施医療機関の管理者に対して実施状況に関するレポートをすること、そしてCRBで研究継続の適否に関する審議を受けることを忘れないよう注意してください。
研究終了
研究終了時には、研究責任医師による「総括報告書」「総括報告書の概要」の作成が求められます。CRBに提出して意見を聞いた上で、実施医療機関の管理者にレポートします。厚生労働省への終了届書の提出も必ず行いましょう。そして、jRCTの情報公開をもって、研究終了となります。
Q&A
よくある質問とそれに対する回答をまとめましたので、参考にしてみてください。
Q.新規申請の審査結果が「継続審査」の場合はどうするのか
A.
委員会から出される指示事項に沿って書類の修正および変更を行い、変更審査依頼書とあわせて再提出します。審査結果を受けてから1週間程度での再提出が望ましいです。
Q.出席は必要か
A.
基本的には出席は不要です。ただし、委員会による指示とかなり異なる変更をした場合、あるいは、さらなる質問が予想されるような場合は、出席を求められる可能性があります。
Q.変更申請書類の審議後はどうするべきか
A.
1週間ないし2週間で CRB事務局より審査結果通知書のメールがきます。その後続けて臨床研究の実施に関する決定通知書のメールも送信されてきます。変更内容が承認され、実施計画の変更があった場合は、jRCTに一時的に保存した内容に審査結果通知書を添付の上、登録を行う必要があります。
Q.変更後の書類はいつ使用できるか
A.
すぐに書類を使用することはできません。CRBによる承認後、実施の管理者から許可を得る必要があるのです。jRCTに公開されていることも必須条件となります。具体的な使用開始日時については、研究調整事務局に問い合わせることができます。
Q.jRCTの操作方法はどこで確認できるか
A.
臨床研究等提出・公開システム操作マニュアル(登録者編)の「業務を想定した操作方法」に記載されています。
Q.軽微変更とは何か
A.
jRCTに登録した実施計画変更に関して、CRBによる審議が不要となるケースのことです。軽微な変更を行う必要が生じる変更例の一部として、次のようなものが挙げられます。
- 研究責任医師の連絡先の変更
- 実施医療機関の管理者の氏名の変更
- 症例登録開始予定日の変更
- 委員会の名称の変更 など
Q.軽微変更の手続きはどこでやるのか
A.
jRCTの軽微変更タブから入力することができます。変更内容を入力したら、実施計画および実施計画変更事項届書をCRB事務局に提出してください。