「治験」の治療では、研究・開発などが進められている新しい薬を用いています。「治験ボランティア」とは、その治験に必要不可欠な被験者へと自らの意思で参加することを指します。
治験ボランティアの募集において、参加者にはどのようなメリット・デメリットがあるのかをここでは説明します。
治験参加者側のメリット
治験への参加を希望する方には、期待できるメリットと想定されるデメリットを対等に説明し、参加者が自ら判断できる情報環境を整えることがGCPで義務付けられています。
社会貢献と医療の進歩に寄与できる
治験に参加することで、新薬や医療機器の開発に直接貢献し、将来の患者さんの治療選択肢を広げることができます。参加経験者の調査でも「医療の進歩に貢献できた」と回答した方が42%、「新薬開発に貢献できた」と回答した方が51%でした。
治療法や薬剤を早期に試す機会があります
標準治療では受けられない、治療薬や医療技術を試せる可能性があります。調査では「新しい薬や医療機器を使用する機会に恵まれた」と感じた方もいました。
詳細な検査やフォローを無償で受けられる
治験期間中は検査回数が増える一方、検査費や一部薬剤費は製薬企業などが負担し、専属スタッフがサポートします。厚生労働省の患者向け情報でも、検査費負担や相談窓口設置などの配慮例が示されています。
「被験者負担軽減費」の支給
負担軽減費は通院回数や時間的拘束による負担を社会通念の範囲で補填する目的で支払われます。
医療スタッフとの密接なコミュニケーションが得られます
治験コーディネーターや医師と十分に話し合える点をメリットと感じた参加者が多数(相談対応65%、医師との対話45%)います。
治験参加者側のデメリット
未知の副作用や重篤な有害事象のリスク
治験薬は開発段階のため、効果が得られない場合や思わぬ副作用が発現する可能性があります。実際に治験参加についてのアンケートでは、参加者の27%が「副作用への不安」をデメリットとして挙げています。
プラセボまたは別用量群へ割り付けられる可能性
試験デザインによっては無効薬(プラセボ)や対照群になる確率があり、必ずしも実薬の効果を得られるわけではありません。インフォームド・コンセントでは「ランダムに割り付けられる可能性」を説明することが求められています。
生活上の負担が大きくなる
「治験に関する啓発活動等の現状に関する調査班報告書」では「通院や診療時間が長くなること」をデメリットに感じた方が15%いました。仕事・学業への影響や食事・服薬の制限が生じる場合もあるため、スケジュール面の説明が不可欠です。
他の治療薬が使えない・治験終了後に薬が継続できない
治験期間中は併用薬が制限されることや、終了後に治験薬を使えなくなる可能性があります。
個人情報や医療データが関係者に閲覧される
治験ではデータの信頼性確保のため、製薬企業や規制当局、モニターがカルテ閲覧を行う場合があります。GCPでは「記録は機密扱いだが、直接閲覧を許可する」旨を説明するよう定められています。
メリットだけでなくデメリットも熟知した上で参加を
この記事では治験ボランティアのメリットとデメリットを取り上げました。
病気を抱えている人にとっては、治験によって新たな薬による治療を受けられることこそが大きなメリットになるかもしれません。医療への貢献ができることや、無料で検査や治療が受けられることも魅力と言えるでしょう。
その一方で、行動や時間の拘束や、副作用の有無は治験のデメリットとして数えることができます。
治験に申し込む際にはこうしたメリット・デメリットを十分把握した上で参加を検討してください。
【医療機関向け】治験ボランティア募集のポイント
十分な人数を集める
まずは治験実施計画書の内容をしっかり理解し、その上で十分な数の治験ボランティア候補をリストアップします。リストアップした候補者の背景や特徴をふまえ、そのなかから、登録できると判断した患者のみに候補者をしぼっていきましょう。
なお、他院に紹介された患者を候補者としてリストアップする場合には、紹介元の医師からの適切な人数を見積もります。
被験者の理解を深める
治験ボランティアの候補者となる患者が、治験についてきちんと把握してから参加するかどうかを検討できるように、明確な説明を心がけることが大切です。分かりやすい文書や理解を補助するための資料を事前に作成して提示することで、理解が充分でないことによって生じる患者の不安を和らげるよう努めましょう。
スクリーニング脱落を最小限に留める
同意を取得したあとのスクリーニング脱落数を、できる限り抑えることが大切です。スクリーニング期の検査結果が除外基準に抵触する症例があまりにも多いと、登録できる患者数が、想定を大幅に下回ってしまう可能性があるからです。
過去のデータなどをふまえ、ゆとりをもって基準をクリアできると考えられる被験者候補を選定しておくことが求められます。
治験ボランティアを募集する方法
院内にポスター・パンフレット設置
院内の目につきやすいところにポスターを掲示することで視覚的にアピールして、ボランティアを集めます。選択基準や除外基準についてできるだけ分かりやすく記載することで、ポスターを見た人が、自分が被験者になり得るかどうかをイメージしやすくなるよう工夫してください。
近隣施設にポスター・パンフレット設置
院内だけでなく公民館や市民センターなど、近隣にある施設にも、ポスターの掲示やパンフレットの配置をしましょう。できるだけ多くの人にボランティア募集に関する情報が広まるよう工夫します。
ウェブサイトの利用
情報発信の手段のひとつとして、ウェブサイトなども積極的に利用していきましょう。実施医療機関の公式ホームページや治験責任医師のSNSなどに、ボランティアの被験者を募集しているという旨の案内・情報を載せます。
主なウェブ広告の特性について把握しておくことで、より効果的に情報発信をすることが可能になります。それぞれのウェブ広告の特性を簡潔にまとめると、次のようになります。
- 【アフィリエイト広告】 会員数を増やすのには向いていますが、被験者の質について、あまり多くを求めることはできません。
- 【リスティング広告】 能動的な利用者が大部分であるため、被験者の質は良いですが、人数を集めるのはそれほど容易ではありません。
- 【SNS広告】 バズ効果を見込めますが、利用層には偏りがあります。
- 【メールマガジン広告】 健康調査済みであり、確度が高い他社媒体会員を対象とした情報発信には適していますが、それほど大きな効果は期待できないでしょう。
案内文書の送付
すでに信頼関係の構築ができている患者のうち、治験ボランティアの候補者になり得る方に対して、治験内容に関する案内文書を送付します。
市民に向けた公開講座
市民公開講座などで、治験に関連のある疾病の病態や診断、治療、そして予防方法などについて解説することによっても、ボランティアを集めやすくなります。
募集時は薬機法・医療法に沿った対応が必要
ボランティアを募集するために、治験に関する情報や内容を提供する際には、薬機法や医療法に抵触することのないよう注意する必要があります。「治験に係わる被験者募集のための情報提供要領」(日本製薬工業協会)などを参考にしてください。