新薬の有効性や安全性を調べるためには、治験が欠かせません。年齢によって得られる効果が異なることも考えられるため、高齢者に対する治験も必要です。ここでは、高齢者治験の現状と課題について解説します。
高齢者治験の現状
現状として、若い方と比較すると高齢者への治験は積極的に行われていません。若い方よりも治験を行う上でリスクが高いと判断されてしまうことも多く、なおかつ生命予後も不良な場合があることが大きな理由です。
高齢者は治験の対象から除外されてしまうことも少なくありません。そのため、新薬の承認前に十分な高齢者のデータが得られていない可能性もあるでしょう。
ただ、ケアマネジャーをパネルにした要介護高齢者の医薬品独自調査サービスを提供している「CMNRメディカル」がケアマネジャーに対して行ったアンケートでは、要介護高齢者に治験を紹介することに前向きな方が多いとの結果になりました。
半数近くの方は治験の被験者募集の委託を引き受ける意思を示しており、そのうち3人に1人は謝礼なしでも引き受けると回答しています(※)。ケアマネジャーの協力を得ることにより今後高齢者の治験数を増やせる可能性も期待できるでしょう。
高齢者治験の課題
高齢者の治験が積極的に行われていないのには、いくつかの理由があります。以下のような課題が挙げられます。
薬剤代謝機能の低下
まず、薬剤代謝機能が加齢によっては衰えていることが挙げられます。若い方と高齢者では、薬剤の代謝機能に大きな違いがあります。これは、薬剤を体内で対処したり排出したりする役割を担っている肝臓と腎臓の働きが低下することによるものです。
代謝・排出の能力が衰えてしまえば、治験薬が体内にとどまり、薬物の血中濃度が高くなることも考えられます。適切な量を見極めて治験を行わなければならず、それが難しいのは課題です。
併用療法の問題
高齢になると複数の疾患を併発しているケースも多く、併用療法をしている場合が珍しくありません。すると、併用療法が治験薬に思わぬ影響を与え、想定外の効果、相互作用を生じてしまう可能性があります。そのため、若い方と比較すると慎重に進めていくことが重要とされています。
薬の感受性に関する課題
薬の感受性も若い方と高齢者では異なります。薬の感受性とは薬物に対する生体反応の程度のことであり、高齢者の場合、感受性が高くなったり反対に低くなったりすることもあります。
これは薬物の種類によってそれぞれ違いが見られるため、どの薬を用いるのか慎重に見極めていかなければなりません。中には安全域が狭い薬物もあり、そういったものについてはより一層注意が必要です。
高齢者ならではの臨床試験が求められる
薬剤代謝機能の低下や併用療法をしている場合があること、また、加齢による薬の感受性に関する課題などがあるため、高齢者に若い方と同様の臨床試験をそのまま当てはめることはできません。
それから、単純に年齢だけで判断するのではなく、個人差なども踏まえて検討が必要です。こういった臨床試験を行う上での条件設定の難しさも課題の一つといえます。