治験は薬剤を注入、または服用することで効果を測定する試験です。「PET(ポジトロン断層法)」と呼ばれる専用の薬剤が用いられる診断法も採用されており、画像診断の有用性が注目されるなか、今後さらにPET治験が普及していくと予想されています。ここではPETの概要、治験でPETを用いる方法や実際の例について紹介します。
PETとは
PETとは核医学診断法の一種であり、ポジトロン断層法の略称です。放射性同位元素を含んだ薬品を患者や被験者の体内に注入し、体内の代謝を画像化する検査です。
一例として、PET薬剤として用いられている18F-FDGはブドウ糖に似た物質を、目印となるポジトロン核種(陽電子放出核種)で印をつけた放射性薬剤であり、糖代謝が盛んな体内の部位に集まる性質が画像診断や治験に利用されています。
PETは腫瘍などを効率良く発見できることから、実際のがん治療やがんの有無の診断に利用されています。体内で行われる糖代謝を利用した検査方法として、すでに実用化されています。
治験でPETを用いる方法
PETを用いた治験では、薬物の対象となる部位のタンパクに特異的に結合する化合物を放射性同位元素で印をつけた「分子プロープ(PETトレーサー)」を薬剤として静脈注射を行います。
18F-FDGなど、陽電子(ポジトロン)を放出する検査薬は、注入後に細胞内に取り込まれます。そしてその細胞からは陽電子が多数放出され、陽電子が消滅する際にガンマ線を体外に出します。
治験では、この体外に放出されるガンマ線を検出器によってスキャンします。放出量の多い部分が画像診断で光って見えるため、治験が正しく行われていることがわかります。
PETを用いた臨床治験例
PETを用いた臨床治験は、がん治療のほかに抗精神病薬や抗うつ薬の用量設定試験、新しい放射性薬剤の開発などのために実施されています。PETを実際に用いて行われている臨床治験について紹介します。
認知症研究のためのPET用薬剤の開発
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターが行ったPET治験の例では、まず2014年に日本核医学会を中心とするPET薬剤製造施設の学会認証を取得し、グローバル治験への参入や国際共同研究を可能にするために、ポジトロン放射性薬剤の製造を可能としました。
2022年現在、認知症研究に役立つPET用薬剤の開発などを中心に、PETを用いた臨床治験が進められています。
抗精神病薬・抗うつ薬の用量設定試験
放射線医学研究所の研究グループは、PETを用いた試験として抗精神病薬や抗うつ薬の用量設定試験を過去に複数回実施しました。
いずれも正常被検者または患者による治験で、セロトニントランスポーターなどの作用点における薬物の効果を評価し、治験の結果は適切な投与量や投与法の設定に役立てられています。