ここでは未成年の治験について、特に注意点などを中心に説明しています。子供でも治験を受けることができますが、成人よりも数多くの条件をクリアしていなくてはなりません。特に未成年の治験を考えている保護者の方は確認してください。
未成年の治験情報と注意点
治験には年齢制限が設けられています。現在、多数の医薬品が研究されていますが、その治験の多くは18歳以上の成人を対象としています。
ただし、病気には子供特有のものも多く、より効果的な治療法が求められることから、治療薬やワクチンの開発では幼児や未成年の子供が治験の対象となる場合もあります。
未成年(乳幼児、10代)に実施できる治験の特徴
未成年者が参加可能な治験は、小児や10代の子供を対象としています。医療分野での小児とはおおよそ0歳から思春期あたりまでを指します。
行われる治験は、小児喘息・小児アトピーや花粉症、ニキビなどの病気で、対象はこれらが原因で医師の診断を受けたことのある子供です。
また、治験ごとに参加可能な条件は異なっており、未成年者の病気の症状や、現在服用している薬の有無も関わってくるため必ず受けられるとは限りません。
未成年(乳幼児、10代)の治験の注意点
治験は事前に「インフォームド・コンセント」(informed consent)を必ず受けることになっています。
インフォームド・コンセントは「説明を受けて納得した上で同意する」という意味合いで、治験においては参加の同意手続きを指します。
未成年者の場合、このインフォームド・コンセントには保護者の同意と署名が必要であり、子供だけが同意手続きを行ったとしても治験への参加は認められません。治験そのものも未成年者には保護者が付き添って行われています。
インフォームド・アセントも要確認
未成年の治験においては、インフォームド・コンセントだけでなく「インフォームド・アセント」に対しても注目が集まっています。
インフォームド・アセントとは、子どもの理解度をふまえてわかりやすく説明し、被験者がしっかりと理解・納得できているかを確認し、その上で治験への参加に関する同意を得ることを意味する言葉です。インフォームド・コンセントと異なり、法的に義務付けられているものではありませんが、取得の必要性を重視する考え方が、主流になりつつあります。
ちなみに、インフォームド・アセントの取得が意味を成すのは、被験者が説明内容をきちんと理解するのに充分な知的レベルを持っていると考えられる場合に限られます。ですから、それぞれの小児の知的レベルに合わせてインフォームド・アセントの文言を作成することが求められます。
民法改正による被験者の変化
民法が改正されたことにより、2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられました。そのため、治験の被験者が18歳以上である場合は、基本的には代諾者の同意が不要になりました。なお、治験参加中に成人年齢に達した被験者に対しては、治験への継続参加意思の有無について、あらためて本人に確認することが推奨されています。
治験における代諾者とは?
治験は、その目的や医療行為によって体にさまざまな影響が与えられます。被験者はこれを理解することで治験への同意を行う必要があります。
しかし、まだ未発達な子供の場合は同意への判断能力が十分とはいえないため、被験者に代わって代諾者からの同意を得なくてはなりません。
代諾者は子供の場合、父親や母親など親権者、後見人などが該当します。
過去実施された治験例
アトピー試験
- 年齢:2~11歳
- 試験実施日程:通院4回
半年以上前に「アトピー性皮膚炎」と診断されている2歳から11歳の男女に行われた治験です。被験者本人はもちろん保護者の同意が必要であり、両親のどちらか一方とともに来院できる子供に限定し募集されました。
喘息試験
- 年齢:5~17歳
- 試験実施日程:通院10回
6か月以上前から喘息の診断を受けている5歳から17歳の男女に対し、治験が行われました。保護者と被験者本人からの同意を得られ、両親のどちらか一方と通院できることが条件でした。通院回数は10回です。
花粉症試験
- 年齢:10~15歳
- 試験実施日程:通院6回
スギ花粉症の治験です。対象は過去2年間に渡りスギ花粉症の症状を訴えている10歳から15歳までの男女です。保護者と被験者本人が治験に同意し、子供が両親のどちらかと一緒に通院できることが条件でした。
ワクチン試験
- 年齢:7~9歳
- 試験実施日程:通院5回
インフルエンザワクチン接種をまだ受けたことのない7歳から9歳の男女が対象とされました。保護者と被験者からの同意があり、両親どちらか一方との一緒に通院できることを条件に実施したものです。
小児治験における課題
小児治験の実施においては、次のような課題があります。慎重に対応策を講じていくことが求められます。
適応外使用であること
ほとんどの薬は大人向けに開発されるため、適応外使用に該当してしまうケースが多いのが実情です。適応外使用は、次のようなリスクをはらんでいます。
- 期待していた効果を得られなかったり、あるいは予想困難な危険な副作用が発生したりする可能性がある
- 保険診療の対象外とされてしまった場合には、費用負担が大きくなる可能性がある
- 医薬品副作用被害救済制度が適用されない場合は、入院治療が医療費・年金などを給付する公的制度の対象から外れてしまう可能性がある
このような課題にアプローチするためには、開発済みの薬については適応外使用を可能な限り減らし、また、これから開発される薬については子ども向けの薬も同時に開発していくなどのアクションが求められます。課題が解決されれば、子どもの治験をより積極的に実施していくための環境を整えやすくなります。
剤形変更による懸念
剤形変更による懸念も、小児治験における大きな課題となっています。剤形変更とは、錠剤をつぶしたりカプセルの中身を取り出したりして、粉薬や水薬などに変化させる対応のことです。小さな子どもでも飲み込めるようにするために必要な作業です。
時間がかかる作業なので、医療従事者にとっての負担も決して小さくありませんが、何より子供へのリスクが懸念されているのです。具体的には、次のようなリスクが考えられます。
- 薬の効き方や安全性などに関する評価が充分ではない可能性がある
- 全体量の減少や成分変化など、品質にムラが出る可能性がある
- 隠されていた味やにおいが現れて飲みにくくなる可能性がある
安全対策の推進を目的としたネットワークがある
日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)の加盟施設によって設置された「小児治験ネットワーク」。次に挙げるような、小児治験における安全対策の推進を目的とした全国規模の治験ネットワークです。
- 小児治験の質およびスピードを向上させるなどして、小児にも使用できる医薬品の拡大・充実を図る
- 小児治験における安全対策の推進につながる情報収集活動を行うことで、不安なく受けられる医療の提供にも寄与していく
未成年の治験はまずさまざまな要素の確認を
未成年の治験は年齢制限や代諾者の必要など、成人の治験とは異なり条件が多いことから、申し込みには入念なチェックが必要です。
治験ごとに年齢制限にも違いが見られたり、通院回数も異なっています。必ず保護者の付き添いが必要なため、両親どちらかのスケジュールも押さえなくてはなりません。
お子さんの治験にはさまざまに気を付けなければならない点があります。親御さんおひとりで考えず、信頼できる方と話し合って十分ご検討下さい。