ICHの定義
ICHとは、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Useの略称であり、日本語では「医薬品規制調和国際会議」および「日米欧三極医薬品規制調和国際会議」と呼ばれています。
ICHの目的
生活習慣病やがん、感染症といった疾患を抱えている方にとって、新薬の登場は待ち遠しいもの。ところが、新薬の認可に関する規制は各国で異なります。そのために、かつては、例えばアメリカで開発された新薬が日本国内で販売・流通するためには、日本の当局が定める規則に則った手続きを一から行う必要がありました。アメリカ国内では既に一般的に使用されている薬品であっても、日本国内では使用できない、といった事態があったのです。
こうした各国の新薬認可に関する規則の間にあるずれを解消し、それぞれの国で新薬認可の工程を効率化・単純化するために、アメリカ、日本、EU、カナダの規制当局および製薬業界団体が中心となって行われている会議がICHです。具体的には、必要な治験データの相互の受け入れの実現を目的として行われ、日本からは厚生労働省・日本製薬工業協会(JMMA)、アメリカからは食品医薬品庁(FDA)・米国研究製薬工業協会(PhRMA)、EUからは欧州委員会(EC)・欧州製薬団体連合会(EFPIA)などが会議に参加し、共通ガイドラインを制定しています。
ICHが定めるガイドラインを自国でも採用しおうとする動きは現在、各国に広がっており、2019年に行われた会議では、合計で26か国の規制当局が参加しました。
ICHガイドラインとは
ICHガイドラインとは、医薬品規制調和国際会議(ICH)が定める国際基準のことです。
ICHには、日本、アメリカ、EUをはじめとする各国の医薬品規制当局や製薬業界の代表者が参加しており、 国際的な医薬品の規制調和を推進しています。ICHガイドラインは、医薬品の開発・審査・製造・販売において 各国の基準の違いによる非効率を軽減する役割を担っています。
また、ICHガイドラインは各国の法規制に影響を与えており、多くの国が参考にしています。 そのため、製薬企業が新薬を開発する際には、ICHガイドラインに基づいたデータの収集や審査を行うことが求められます。
ICHガイドラインの4つの分野
ICHガイドラインは、品質(Quality)、安全性(Safety)、有効性(Efficacy)、複合領域(Multidisciplinary)の4つの分野に分類されます。
- 品質(Quality): 医薬品の安定性、製造管理、品質管理など、医薬品の品質を確保するための基準を定めています。
- 安全性(Safety): がん原性試験や毒性試験など、医薬品が人体に与える安全性を評価するための基準を示しています。
- 有効性(Efficacy): 臨床試験の実施基準やデータの評価方法を定め、医薬品の有効性を科学的に証明するための基準を提供しています。
- 複合領域(Multidisciplinary): 品質・安全性・有効性の複数分野に関わるガイドラインで、国際共通の承認申請資料やデータ管理の標準化などを含みます。
これらの分野ごとのガイドラインにより、医薬品の開発・製造・審査が国際的に統一され、医薬品の開発・製造・審査の国際的な基準の調和が進みます。
ガイドラインの合意(調和)までのプロセス
ICHガイドラインは、5つのステップを経て合意され、各国で適用されます。このプロセスにより、国際的な医薬品の規制調和が実現されます。
ステップ1:技術ドキュメントの作成
新しいガイドラインの必要性が総会で承認されると、専門家作業部会(EWG)が設置されます。EWGはガイドライン案の基礎となる技術ドキュメントを作成します。
ステップ2:ガイドライン案の採択
- ステップ2a: EWGが作成した技術ドキュメントをICH総会が承認。
- ステップ2b: これを基に、正式なガイドライン案が作成され、各国の規制当局代表者によって承認されます。
ステップ3:意見公募と修正
各国の規制当局(日本では厚生労働省)がガイドライン案を公表し、公に意見を募集します。その後、寄せられた意見をもとに修正が行われ、最終案が作成されます。
ステップ4:最終合意と採択
ガイドライン案が総会の規制当局代表者によって最終承認されると、正式なガイドラインとして採択されます。
ステップ5:各国での実施
ICHの各加盟国では、規制当局ごとの手続きを経てガイドラインが施行されます。日本では、厚生労働省医薬局から通知が行われ、適用が開始されます。